藤井聡太棋聖が揮毫した「雲外蒼天」の意味と出典は

漢字と漢詩規則

2021年10月10日藤井聡太棋聖が第92期棋聖に就任しました。その時に揮毫した文字が「雲外蒼天」です。

この文字はどのような意味があるのでしょうか。また、この文字はどのようないわれに基づいて出典から出されたのでしょうか。このことを調べてみました。

「雲外蒼天」の意味はどのようなものでしょうか

「雲外青天」はおよそ10年ほど前から徐々に使われてきた言葉のようです。

そして、「雲外は」文字通り雲の外ですから、雲を突き抜けた向こう側ですね。「蒼天」は青空のことですので、晴れ渡る青空をイメージしていただけたら良いでしょう。

そして、この文字は、今は雲がかかって苦しい時期だけれど、雲の上には広々とした青空が広がっている。

現在の苦しい状態に負けずに、雲の上には青空が広がっているのを信じて頑張ろうというような意味に使われています。

「雲外蒼天」はどのような出典から出てきたのでしょうか

実は、これが大問題だということがわかりました。どの古典を調べても、「雲外蒼天」がそのまま使われているものがないのです。このような四文字熟語のようなものですから、過去の文献からとってきたと考えるのが自然なのですが、全くの日本の造語のようです。

それでは、全く面白くもありませんので、関連の語句も含めて広く調べてみることにします。

一字違いの「雲外青天」はどこから来たのでしょうか

調べていくと、一字違いの「雲外青天」という四字を用いた漢詩にあたりました。一字違いとはいえ、意味するところは同じです。せいぜい語感が違うだけです。この漢詩は次のようなものです。

窗間戲題

雲在青山自往還,鶴穿雲外上青天。

雲來鶴去不相試,兩個無心莫結緣。

確かに二句目に雲外と青天がありますよね。このままでは、わからないので少し解説をしておきます。

題は窗間戲題と書いて「そうかんぎだい」と読みます。前半の窗間は窓の間後半の戲題は戯言とでもいうのでしょう。窓からのぞいた戯言ぐらいの感じでしょう。

最初の一句は、雲青山にありて自ずから往き還ると読むのでしょう。雲が青々とした山の間にあって、行ったり来たりしているという感じです。

二句目は、鶴雲外を穿ち青天に上がる。鶴が雲を突き抜けて雲の上の青空に上っていく。

三句目は、雲来りて鶴去り相試さず。雲は来て鶴は去って両者再び試すことはない。

四句目は、両個無心にして結縁なし。雲も鶴も意識がないので、両者には縁がない。

こんな感じでしょうか。残念ながら、日本で使われている「雲外蒼天」の言葉の意味は出てこないようです。

ついでにこの詩を作った謝枋得(しゃぼうとく)と呼ぶそうですが、南宋の末の政治家になります。

この人は、とても優秀すぎて科挙を受けて途中までは最優秀の成績だったのですが、最後の殿試で政権批判をしたために、一番にはならなかったという言い伝えがあります。

南宋は彼の時代に減に滅ぼされてしまいます。彼は、そのため、市井に身を隠して占いかなんかをしていたようです。

その後、元が南宋の高官を自分の政権に用いようと大都(北京)に招聘しますが、彼は断固拒否します。結局は連れていかれてしまうのですが、その時に詩を托して、食を断って餓死したといわれています。

南宋から元に仕えるのを拒否して刑死したとして有名な文天祥がいますが、それに劣らず節を通した人だったのですね。

その他にも「雲外」、「蒼天」ではこんな用例が見つかっています。

江戸時代初めの頃、徳川家康に仕え最強の武士と言われた石川丈山の富士山の詩にも使われています。

富士山<石川丈山>

仙客来り遊ぶ 雲外の巓

神龍栖み老ゆ 洞中の淵

雪は紈素の如く 煙は柄の如し

白扇倒に懸かる 東海の天

 

中国の最古の詩集詩経の中にも次のような用例があります。

知我者 (我を知る者は)

謂我心憂 (我は心を憂うと謂い)

不知我者 (我を知らざる者は)

謂我何求 (我何をか求むと謂う)

悠々蒼天 (悠々たる蒼天)

此何人哉 (此れ何人〈なんびと〉ぞや)

藤井聡太棋聖が揮毫した「雲外蒼天」の意味と出典のまとめ

藤井聡太棋聖の揮毫が興味を引いたので調べてみました。調べてみると意外とすっきりした出典が見つからずに苦労しました。

それに近いものをご紹介しましたが、日本で使われている用例とは少しギャップがあるのでがっかりした方もいるかもしれません。

別の例で言えば、例えば大河ドラマのタイトル「青天を衝け」は語感も鋭く、何か大志を抱いて、チャレンジするかのような感じがしますが、この出典は渋沢栄一の漢詩「内山峡」からの四文字をとってきたものです。

原文の詩文では、こんな語感とは別に、内山峡を上る際の道の険しさを表現した表現ですので、原文を読むとだいぶ違う印象を受けるものです。

しかし、そんなことは気にすることはないのです。これから新しい世界を開いていけばよいと思っています。

中国の漢詩一覧はこちら

タイトルとURLをコピーしました