杜甫の絶句2首を味わってみましょう。杜甫にとっては晩年と言える53歳の作品です。
安禄山の乱に続く唐王朝の混乱の中にあって、長安に軟禁されたり、脱出したりと波乱に満ちた生活を送り、朝廷を離れて四川に移り住みます。
ここでもしばらく混乱がつづきますが、成都の混乱が収まって杜甫一家が草堂に戻って間もなくの作品として知られています。やっとしばらく平和な時期を迎えることができるようになったのです。
杜甫の絶句其の1の解説をします
絶句は五言絶句ですのでこれだけの簡単なものです。
其の1
遅日江山麗 春風花草香
泥融飛燕子 沙暖睡鴛鴦
杜甫の絶句其の1の読み方は
遅日(ちじつ)江山(こうざん)麗しく 春風(しゅんぷう)花草(かそう)香(かんば)し
泥(どろ)融けて燕子飛び 沙暖かにして鴛鴦(えんおう)睡る
杜甫の絶句其の1の意味は
遅日は日が長いので春の日の意味ですがこれをうけて、川も山も麗しい 春の風に花も草もかんばしい。
泥は融けてこれを口に含んで燕は飛び 沙は暖かく鴛鴦(つがいのおしどり)が睡っている。
極めて簡単な内容ですよね。これだけ簡単ですと解説する必要がほとんどないでしょう。
杜甫の絶句其の1の押韻、平仄、対句は
これは見ての通り典型的な五言絶句です。平字を○、仄字を●、韻字は平字の陽ですのでこれをあらわしてみます。
遅日江山麗 春風花草香 〇●〇〇● 〇〇〇●陽
泥融飛燕子 沙暖睡鴛鴦 〇〇〇●● 〇●●〇陽
第二句の末字と第四句の末字が陽で揃っていますよね。
一句目の二字目と四字目は仄字、平字、で二四不同となっています。
同じように、二句目は平字、仄字、三句目も平字、仄字、四句目は仄字、平字で、二四不同のルールは守れれています。
各句の二字目が仄字、平字、平字、仄字となって反法(平仄がひっくり返る)、粘法(同じ平仄)、反法で繋がっていますよね。
次に各句の五字目が平字、仄字、仄字、平字で同じく反法、粘法、反法で繋がっています。
そして、内容を見ていくと一句目は自然の景色、二句目はその中での植物の様子、三句目からの後半は動物となって空を飛ぶ燕を、四句目は岸辺に佇むおしどりを描いています。
初めは大きな風景から描いて細かいところに行き、三句目で目を風景の中で生活する鳥に目を向け風景の中を大きく飛び交う燕、そしてじっと佇むオシドリと変化を付けています。
さらにこの絶句の特徴として対句が多用されているのです。最初の、遅日と春風、江山と花草、麗と香です。三句目四句目もそうです。泥融と沙暖、飛と睡、燕子と鴛鴦です。
このようにすべての句が対をなしているのを全対格と言います。律詩を得意とした杜甫の本領が発揮された名句です。いかにもゆったりした春の日を描いた平和な詩ですね。
ただ、なんとなく全体に動きの少ない詩のような気がします。全体に時間が止まっているような感じがするのは私だけでしょうか。
杜甫の絶句其の2の解説をします
其の2も五言絶句です。僅か20文字ですので簡単ですよね。見ただけでイメージはできると思います。
江碧鳥逾白 山青花欲然
今春看又過 何日是帰年
杜甫の絶句その2の読み方は
江(こう)碧にして鳥逾(いよいよ)白く 山青くして花然(も)えんと欲す
今春看(み)すみす又過ぐ 何れの日か是れ帰年ならん
杜甫の絶句其の2の意味は
川は碧にが濃くなって、鳥はますます白く見えます。この江は大河ですから、日本の情景のように対岸がすぐそばに見えるような河を想像すると違ってきます。むしろ海を見るような感じと考えてください。
山は青色にかすんで、春の花、これは桃の花のような鮮やか赤を想像します。これが燃えているようなイメージです。この二句は江の碧、鳥の白、山の青、花の赤が美しく描かれています。
今年の春も徒労に終わって過ぎていくことを嘆きます。何時になったら都の長安に帰れるのだろうかという意味です。
人間の営みは様々な障害に振り回されてしまいますが、そんなことにかまわずに自然は悠々と時を過ごしていくのを詠っていると思います。
其の一は描写が極めて絵画的で止まったような雰囲気を持っていましたが、其の二は前半に自然描写を持って行き、後半は人間の営みの無力さを、杜甫の絶唱とも言える嘆きを示しているように思えます。
杜甫の絶句其の2の押韻、平仄、対句は
これも典型的な五言絶句です。同じように平字を〇、仄字を●、韻字は平字の先ですから先と示します。
江碧鳥逾白 山青花欲然 〇●●〇● 〇〇〇●先
今春看又過 何日是帰年 〇〇両●両 〇●●〇先
ここで両と書いた変な記号を入れてしまいましたが、これは両韻と言って、平字でも仄字でもどちらでも使える便利な字が入っていました。
数は少ないのですが、この字があると作詩の時に大変たくかるのです。でもこの韻は本当はどちらが良かったかわかりますか。
最期の過は両韻であっても五言絶句は韻を踏まない一句目と三句目の末字は仄字ですので、これは仄字と考えるのです。また、前の看はこれは平字と考えたほうが良いと思います。なぜでしょうか。
これまであまり説明してこなかったのですが、下三連というルールがあります。これは末の三文字を平字でそろえる又は仄字でそろえるのを嫌うルールがあります。
特に平字でそろえるのは厳禁とされています。そんなことですから、仄字ですと下三連が仄字で揃ってしまいますので、平字と考えるのが良いと思います。
五言絶句の基本ルール二四不同については満足しておりますのでご自身で確認してください。と言っても上の〇●を確認するだけですけどね。
それと、一句目と二句目はきれいな対句になっていることをお忘れなく。
杜甫の絶句二首はどんな内容の漢詩でしょうかのまとめ
杜甫の有名な絶句2首を丁寧に解説してきました。このぐらいゆっくり説明すると初めての方でもお分かりになると思います。
杜甫は律詩の名手ですが、絶句はあまり評価されていません。その中でも秀逸なこの2種を味わっていただければ幸いです。
特に其の二については、様々な教科書でも取り上げられている名詩ですので、十分楽しめると思います。