杜甫の七言律詩の名作「登高」の鑑賞と漢詩の構成の解説

中国の漢詩

杜甫の晩年に詠まれた七言律詩の名作「登高」について説明していきます。

この詩は杜甫が放浪の旅を続けて重慶で作られたとされており、律詩に優れた杜甫の作風が十分に描き出されています。前半は風景描写から始まり、後半はこれまでの人生を振り返る内容です。

杜甫の「登高」の本文と読み方、内容を解説します

杜甫の「登高」は次のような詩です。

登高 杜甫

風急天高猿嘯哀 渚清沙白鳥飛廻

無辺落木蕭蕭下 不盡長江滾滾来

万里悲秋常作客 百年多病独登台

艱難苦恨繁霜鬢 潦倒新停濁酒杯

七言絶句ですので、七言×八句ありますので56文字もあります。慣れないうちはこれだけでも読むのに苦労してしまいます。私も最初はそうでしたが、いま改めてみてみるとさそれを超越したすごい作品だということがわかります。

杜甫の「登高」の読み方は次のようです

登高(とうこう)

風急に天高くして猿嘯(えんしょう)哀し 渚清く沙(すな)白くして鳥飛びて廻る。

無辺の落木粛々(しゅくしゅく)として下り 不尽(ふじん)の長江滾々(滾々)と指摘たる。

万里悲秋常に客と作(な)り 百年多病独り台に登る

艱難苦(はなは)だ恨む繁霜(はんそう)の鬢 潦倒(ろうとう)新たに停(とど)む濁酒の杯。

意外と難しい用語がないので読みやすかったのではないかと思います。この詩は比較的やさしい言葉遣いなので、読んだだけである程度の意味が取れるのではないでしょうか。

杜甫の「登高」の意味は次の通りです

まずは登高(とうこう)の意味から説明しなければなりませんね。陰暦の9月9日重陽の節句に行われる行事で。

家族、友人などを募って小高い山に登って菊酒を飲んで災難を払う習慣があります。頭には須臾の実を飾るそうです。今でいけばピクニックのような感じになります。

風急に天高くしてはわかりますね。猿嘯は猿の鳴き声ですがこれは哀しさの象徴とされています。

渚清くも沙白くしても大丈夫でしょう。鳥飛びて廻るも情景が浮かびますね。

無辺の落木も果てしなくつながる落葉樹の蕭々としてというのは葉が落ちるさまを表現しています。

不尽の長江ですから尽きることなく水が流れる表現を滾々(滾々)と表現しています。ここまでは周りの風景の描写です。

万里は故郷をはるかに離れて秋を悲しむ様子です。そして、いつも旅人になっていると嘆いています。

百年は生涯を示しており、病気ばかりをして、独りでこの高台に登っているとしています。

これまでの艱難により一面に霜が降りたような鬢になってしまったことをはなはだ恨めしい。

潦倒は老い衰えるさまで老いのために濁酒の杯も新たに停められてしまった。

というような内容です。なんか人生の悲哀を感じてしまいますね。

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杜甫の「登高」の詩の構成を見てみましょう。

これは典型的な七言律詩として知られています。とりあえずは韻を見ていくことになります。

二句目、四句目、六句目、八句目の末字は廻、来、台、杯ですね。これらは、平字の灰ですので脚韻としては満足しています。

この後はお決まりのように、各句の二字目、四字目、六字目の平仄を調べていきます。例えば一句目は急、高、嘯です。これは仄字、平字、仄字になっています。

この二字目と六字目の平仄が同じであることを二六対二字目と四字目の平仄が違うことを二四不同といっています。

これを次の二句目は清、白、飛ですから、平字、仄字、平字となっていますので、これも揃っています。これを全部の句について確かめるのですが、ここでは省略します。

また、一句目と二句目はこの並び方が反対になっていますね。これを反法と言います。通常は三句目は二句目と同じになるので粘法四句目は反転するので反法となるはずです。

次の四句は通常は前半と同じ並びになるはずです。

漢詩「登高」の優れている点は、この対句にあります

律詩は二句毎に起聯、頷聯、頸聯、結聯と言っており、特に頷聯と頸聯は対句であることが求められているのです。

しかし、この「登高」はすべての聯が対句をなしております。これを全対格と言います。それを確認していきましょう。

まずは、起聯です。風急にと渚清しで対になっていますよね。次に、天高くと沙白くでこれも対になっていますよね。猿嘯哀しと鳥飛廻るも対になります。

しかも、一句目は山を見ての風景、二句目は河を見ての風景を示していて見事ですね。

頷聯に行きます。無辺と不盡も対です。落木と長江もですね。蕭々として下り滾々として来るもそうですね。しかもこれも三句目は山の風景、四句目は河の風景ですね。

頸聯に行きます。万里と百年悲秋と多病常に客となりと独り台に登るが対になります。五句目は内面の悲しみ、六句目は病身と孤独を表しています。

この四句目からは自分の内面境遇を述べることになります。

結聯は艱難と潦倒が対に、はなはだに恨むと新たに停むが対に、繁霜鬢と濁酒杯が対になっていますよね。このように対句を多用した詩の構成となっています。

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杜甫の七言律詩の名作「登高」の鑑賞と漢詩の構成の解説のまとめ

この「登高」は大歴2年(767年)杜甫56歳の秋の作品です。作品によれば一人で高台に登ったようで何だか悲しいですね。

前半は広大な自然を詠っているのに、苦しかった人生を想い、後半は老齢による体の衰えと病気を嘆いていて、段々悲痛になってきます。

確かに、この頃杜甫は喘息、神経痛、糖尿病を患っており、聴力も衰えてきたとされています。そして、翌年には長江を下って新たに移住しようとしています。

この詩は七言律詩の代表作ですし、この対句の構成が素晴らしいと思います。ぜひ味わっていただけたら幸いです。

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