中国最古の詩集である詩経の国風・魏風の陟岵(ちょくこ)を紹介します。この詩は日本的に言えば防人(さきもり)の歌のようなもので、辺境の守備に就かされた兵士を題材にしたものです。
詩経の陟岵(ちょくこ)の内容は
詩経の陟岵(ちょくこ)は3つの部分に分かれています。
詩経の陟岵(ちょくこ)第1段の内容は
陟彼岵兮 彼の岵(こ)に陟(のぼ)りて
瞻望父兮 父を瞻望(せんぼう)す
父曰嗟予子 父は曰へり 嗟(ああ)予が子よ
行役夙夜無已 行役(こうえき)せば 夙夜(しゅくや)已むこと無けん
上慎旃哉 上(ねが)はくは旃(これ)を慎しめや
猶來無止 猶(なほ)來りて止まること無かれと
あの草木が茂った山の頂に上って、遥かに遠い父を仰ぎ見る。父はこのように言ったのだ。ああ我が子よ。動員されて役に付けば、朝から晩まで、休まずに働くだろう。願はくは注意しておくれ。帰ってきてそちらに留まることは無いように。
詩経の陟岵(ちょくこ)第2段の内容は
陟彼屺兮 彼の屺に陟りて
瞻望母兮 母を瞻望す
母曰嗟予季 母は曰へり 嗟予が季よ
行役夙夜無寐 行役せば 夙夜寐ぬること無けん
上慎旃哉 上はくは旃を慎しめや
猶來無棄 猶來りて棄つること無かれと
あのはげ山の頂に上って母を仰ぎ見る。母はこのように言った。ああ我が末っ子よ。労役に服せば朝から晩まで寝ることもできないだろう。願わくは気を付けなさい。こちらに帰ってきて、かの地に棄てられることがないように。
詩経の陟岵(ちょくこ)第3段の内容は
陟彼岡兮 彼の岡に陟りて
瞻望兄兮 兄を瞻望す
兄曰嗟予弟 兄は曰へり 嗟予が弟
行役夙夜必偕 行役せば 夙夜必ず偕にせよ
上慎旃哉 上はくは旃を慎しめや
猶來無死 猶來りて死すること無かれと
あの山の背に上って、遥かに兄を仰ぎ見る。兄は言った。ああ我が弟よ。役に就けば朝も夜も必ずみんなと一緒にいなさい。願わくば注意しなさい。無事に帰って死ぬようなことがないようにと。
詩経の陟岵(ちょくこ)の感想
詩経の陟岵の内容は、遠く戦場に駆り出された若者が故郷の父、母、兄を思い出してつづったとされている想定です。古来戦争に駆り出される若者の悲劇はあらゆる媒体を通じて述べられているでしょう。
この詩経の影響を受けたのでしょう。万葉集でも恋人、妻との別れが多いのですが、同じような父母の愛をうたったものが残されています。これも一緒に味わっていただければ幸いです。
父母が頭かき撫で幸くあれていひし言葉ぜ忘れかねつる
大君の命かしこみ磯に触り海原わたる父母を置きて
水鳥の立ちのいそぎに父母に物言はず来(け)にて今ぞ悔しき
忘らむと野行き山行き我来れど我が父母は忘れせぬかも
橘の美衣利みえりの里に父を置きて道の長道ながては行きがてぬかも