漢詩で最も有名な杜甫の春望による漢詩入門

中国の漢詩

漢詩の中の有名中の有名な杜甫の春望を使って解説を始めたいと思います。この漢詩は757年杜甫が46歳の時に作った詩と言われています。

この内容をひも解きながら、漢詩の構造と創作の仕方を説明いたします。

杜甫の「春望」はどのような漢詩でしょうか

杜甫の春望の漢詩の全容は次の通りです。

国 破 山 河 在

城 春 草 木 深

感 時 花 濺 涙

恨 別 鳥 驚 心

烽 火 連 三 月

家 書 抵 万 金

白 頭 掻 更 短

渾 欲 不 勝 簪

一句5言の8行ある詩です。詩の世界では五言律詩という形式です。

この字数と行数の他に、二句、四句、六句、八句の韻がそろっていることと、三句と四句の頷聯(がんれん)、五句と六句の頸聯(けいれん)が対句をなしていることが必須条件です。

杜甫の漢詩「春望」の読み方は

国(首都のこと)破れて(破壊されて)山河在り

城春にして草木深し

時に感じては(この時代を振り返ると)花にも涙を濺(そそ)ぎ

別れを恨んでは鳥にも心を驚かす

烽火(ほうか:狼煙、戦乱のこと)三月に連なり(及ぶこと)

家書(家族からの手紙)万金に抵(あ:値する)たる

白頭(白髪頭)掻(か)けば更に短く

すべて簪(しん:かんざし)に勝(た)へざらん(うまくささらない)と欲す

漢詩の五言の構造は2+3となっています。基本この分け方で読んでいけばよいのです。つまり「国破れて」+「山河あり」と読んでいきます。これが読み方の基本です。

そして律詩について重要なのは、二句目、三句目四句目、五句目対句構造です。これは文法の構造が同じように作られていることが大切です。すなわち、

感時、「時に感じては」恨別、「別れを恨んでは」同じ構造ですね。

それでは、烽火と家書はどうでしょう。ちょっと考えてみてください。

花濺涙「花にも涙をそそぐ」鳥驚心「鳥にも心をおどろかす」も同じ構造です。

それでは、三月連と抵万金はいかがでしょう。

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杜甫の漢詩「春望」の韻は

そして、皆さんが最も難しいと感じている韻について説明しておきます。この詩の韻の形を示したものが次の通りです。

国 破 山 河 在  ●● 〇〇●

城 春 草 木 深  〇〇 ●●侵

感 時 花 濺 涙  ●〇 〇●●

恨 別 鳥 驚 心  ●● ●〇侵

烽 火 連 三 月  〇● 〇〇●

家 書 抵 万 金  〇〇 ●●侵

白 頭 掻 更 短  ●〇 〇●●

渾 欲 不 勝 簪  〇● ●〇侵

右側に示したのが平仄の違いです。このうち○は平字というものです。●は仄字というものです。どちらも漢和辞典で調べればわかります。

この当時の音は現代とは少し変わっておりますが、平字はどちらかと言えば高く又は高く上げながら発音する音、仄字は低く又は最後を低く下げる音を示しています。

また、二句、四句、六句、八句の最後の「侵」はこの音のを示すものです。つまり、深、心、金、簪は同じ「侵」という分類の同じ韻を示しています。

そして律詩の条件は次の4つです。

1.二句目、四句目、六句目、八句目の最後が韻を踏んでいること。

2.一句目、三句目、五句目、七句目の最後の字は仄字であること。

3.句の中の二字目と五字目は平仄を変えること。この詩の中では一句目が●○ですよね。

4.二字めが●ではじまれば、次の句からは〇○● ●○〇●となること。すなわち、反対、同じ、反対、同じ、反対、同じ、反対という順番です。同様に五字目が○なら●●○ ○●●○となります。

どうでしょう。ややこしいでしょうね。最初の頃はこれでも精一杯です。それでも次第に慣れてきますので、こういうものだということで理解してください。本当はもう少し細かいものもありますが、この程度としておきます。

このように律詩は平仄に加えて対句の構造を作るのが必須なので、とても作るのが難しいのです。したがって、大部分の方は、七言絶句から創作の練習をします。

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漢詩でもっとも有名な杜甫の春望から入る漢詩入門のまとめ

背景を紹介するのを忘れていました。

この詩は杜甫が安禄山の乱の最中に長安に戻ろうとして、反乱軍につかまってしまいます。家族は乱を避けて避難していたので無事でしたが、長安に軟禁状態となって約2年間の月日を過ごしたときの状況を述べたものです。

杜甫の春望を題材に漢詩のさわりの説明を紹介しました。春望はとても有名ですし、内容もあります。そのまま鑑賞して理解するだけでも十分なものです。

しかし、本当に知るのであれば、このぐらいのことは行ったほうが良いかと思います。今回平仄を調べてつけておきましたが、母国語だから当然だと思いますが、それでも平仄の付け方は完璧です。

もう一つ先に進みたいのであれば、これを現代中国語に置き換えて読んでみるのも勉強になります。当時とは韻の状況が違いますが、それでも何等か我々に響くところが残るはずです。

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