王維の鹿柴(ろくさい)により自然の静けさを楽しむ

中国の漢詩

王維は盛唐期の大詩人ですが、若くして科挙に合格し王朝での高官を歴任していましたが、若くして仏教に帰依しており、長安近郊の網川に別荘を構え、世俗と距離を置いた静かな暮らしをしていました。その網川荘で読んだ有名な「鹿柴」を取り上げます。

王維の鹿柴はどんな詩なのでしょうか

王維は長安の近郊、終南山の谷間の網川の地に別荘を持ち、そこで暮らすことにしております。その別荘と言っても広大なものだったようで、その中で20か所の景勝地を選んで詩を作っております。それが網川二十景と言われているものです。

王維が網川に別荘を構えたのは、733年(開元21年)以降と考えられております。それから755年(天宝14年)の安禄山の乱までの間、官僚として主要な地位を歴任する傍ら、時間を見付けてこの網川荘で静かに暮らしたと考えられています。

王維の鹿柴の内容を見ていきましょう

それでは、鹿柴を紹介しておきましょう。

網川集 鹿柴

空山不見人

但聞人語響

返景入森林

復照青苔上

五言絶句ですからたった20字の詩です。

鹿柴の読みは

網川集(もうせんしゅう) 鹿柴(ろくさい)

空山(くうざん)人を見ず

但(ただ)人語の響を聞くのみ。

返景森林に入り

復た照らす青苔(せいたい)の上。

鹿柴の意味は

網川集 鹿柴(鹿をかうための柵)

寂しそうな山では人影は見えず

ただ、人がしゃべる声だけが聞こえる。

夕日は深い林の中に差し込み

木の下の青い苔の上を照らしている。

内容は簡単ですよね。これだけの解説で理解できるでしょう。静かな森の中の様子が見てて来ますよね。それでもとんでもない辺境の地ではないのがわかるでしょう。

静かな中にも人の声が聞こえてくるのですから、都会の近郊だということがわかります。日本でもこんな体験をされることが多いのではないでしょうか。

周りに誰も見えなくても、微かに人声が聞こえるというのが、静けさを強調している気がします。

王維の鹿柴の詩の形を見ていきましょう

この詩は1行が5言で4句ありますから、五言絶句と推測がつくでしょう。しかし、せっかくですから韻を細かく見ていきたいと思います。

この詩の平仄は次の通りとなります。我々はネイティブではないので、読んだだけの感覚では判別がつきにくいのです。

それでも長い間親しめば慣れては来るでしょうが、一般には平仄を辞書で引いてみてみる必要があるのです。平が平音、仄が仄音です。

平平平仄平

仄平平仄養

仄仄仄平平

仄仄平平養

実は、分類上は五言絶句になるのですが、我々日本人が親しむ形式とはかなり違っていることがわかります。順番に説明していきましょう。

第一に韻が2句目、4句目で踏まれていますが、仄音の韻である

日本人にとっては平音で韻を踏むことが大部分です。中には練達者で仄音の韻を踏む詩もかってはありましたが、今では見かけることすらできないでしょう。これを見ただけで相当戸惑うことになるでしょう。

第二に2字目、4字目が韻が不同であることを調べます。

これについては、原則を踏み外していませんので、ここまで調べれば五言絶句と言えると断定することができるのです。

第三は粘法反法を調べることです

2字目、4字目の韻が次の2句目も同じになっていますね。これを粘法と言います。また、2句目から3句目に行くとひっくり返っていますね。これを反法と言います。更に、3句目から4句目に行くと同じですね。これを粘法と言います。

このようにこの詩は粘法、反法、粘法でつながっているのです。これも、通常我々が見ない形式です。通常は反法、粘法、反法のつながりですので、これを見ると戸惑うことになるのです。

そういう意味で、この詩は、意味を取るのは割合やさしい感じがしますが、詩の構成を見ていくと非常に難しく感じることになります。

鹿柴を作った王維について

王維は701年の生まれですが、719年に進士に合格するなど俊才ぶりを発揮します。親の影響から若いころから仏教に帰依しており、その高潔な人柄も有名でした。

合わせて、上品であり、音楽、書、絵画にも通じていたそうです。

安禄山の乱の後、安賊山に仕えたとして厳しく追及されていましたが、弟のとりなしと、安禄山の政権中に作った詩によりその罪が問われることなく、軽い降格で許されました。

その後も政権の中で無事に全うできました。杜甫など当時の詩人とも交流を深めておりますが、変わったところでは唐に仕えていた阿倍仲麻呂とも交流を持っておりました。

王維の鹿柴により自然の静けさを楽しむのまとめ

王維の鹿柴の鑑賞と詩の構成を解説していきました。この詩は長安の近郊にあってひと時の静寂を詠った詩でもあります。

王維の心の安らぎを少しでも感じ取ることができれば幸いと考えています。王維の詩は日本人にもわかりやすいことから、ぜひ取り上げて鑑賞したいと思います。

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